絵を好きになる大作戦 in ロンドン
去年の9月にロンドンに来ました。経緯なんですが、絵を始めるのが遅かったことをしばらく悩んでいて、その糸口になるといいなあみたいな気持ちがありました。
幼少期に絵を描いていた記憶はほんとに無くて、大人になってから本当にやりたかったのは絵なのかもしれないとなぜか思って22~23歳くらいで絵を描き始めました。
2016年頃、優しい先輩が初めてイラストの仕事をくれて、でもまだほとんど絵が描けなかったので、パソコンのソフトを使って見様見真似でイラスト(のようなもの)を描きました。
(2016年に描いたもの)
最初はパンフレットの小さなアイコンなどから描き始めて、他にはグッズ工房と家庭教師のアルバイトをしていました。
3年くらい経って、絵のようなものは少しずつ絵になり仕事も増えていったんですが、15歳でギターにのめり込んだときの、マリオでいうスター状態の音楽が脳内で常にかかっているみたいな、あの、主人公感!コレだ!感を、絵ではまだ感じていなかったんですね。
(2019年に描いたもの)
嫌いではないし、楽しいなと思える瞬間も勿論あるんだけど、いつまで経っても全く得意だとか才能があるとか思えないし、何より幼少期からずっと絵を描いてきた強者たちがいる中で、バンドしかやってこなかった自分みたいな人間が今からやって間に合うのかな、遅すぎたんじゃないかという不安がもうずっとありましたね。
実際本当に絵が下手でした。イラストレーターになってからも、紙に鉛筆で絵を描く、みたいなことはほぼなかったんです。最初からデジタルで始めちゃったから。
これじゃダメだと思って近所のデッサン予備校に通い始めたんですが、全く基礎を習ったことのなかった自分が初めて描いた円錐は、これでも普段はイラストレーターなんですと美大受験を控えるまわりの高校生たちに伝えたらきっと日本の未来を疑う出来栄えでした。
(2020年に描いたもの)
それでめっちゃ練習しました。1年半ほど通いました。
(2021年に描いたもの)
でも、どれだけ練習しても絵に対する自信の無さが消えることがなくて、はーと思って、予備校の高校生に「なんでそんなに絵が上手なんですか?」と聞いてみたら、自分より10歳下の青年は「わからないんですけど…なんか…絵が大好きなんです!!」と答えてくれました。
わっ!と思いました。自分に足りないのは「好き」の気持ちじゃん!!なんかもうすっかり大人になっちゃって、「技術の向上」とか「どう仕事にするか」みたいな視点ばっかりで絵と向き合ってきたんだなと愕然としました。絵をビートルズや村上春樹くらい大好きになれたらいいのにと本気で思いました。
この時点でイラストレーターを名乗り出して5年が経っていたので、5年やってまだ好きにすらなれていない自分は絵に向いていなかったんだと考えるようになって、予備校に行くのをやめました。
でもやっともらえるようになってきたイラストの仕事で迷惑をかけたくなくて、自宅で練習してましたが、もう上手く描けないことにしか注目できなくなっていて、スケッチブックを表紙ごと真っ二つに引き裂いて奇声を上げたり、新品の鉛筆を奥歯で噛んでへし折るようになっちゃって、この頃は自分で自分が怖かったですね。
ちょっとこれは良くない感じになってるなと、環境を変えようと思ってロンドンに住み始めた、というのが、長くなりましたが、経緯です。(ちなみに、ビザの話はまたいつか書きます。)
で、僕がロンドンで今、何をしているのかというと、『絵を好きになる大作戦!』です!
なんかね、絵に対する才能とか感じたこと本当にないんですが、なぜか、「人生でいつか、良い絵が描けるようになってみたい!」という願望だけは、大人になってからずっと消えなくて、やっぱりまだ諦めきれないんですね。
で、今の自分と、そんな未来の理想の自分との間に、何か違いがあるとしたら、世界に自分一人しか存在しなくても絵を描いていたいと思えるほど絵が大好きだ!ってぐらい本当に絵が大好きな気持ち、だと思ったんです。
でもね、みなさんは意図的に何かを大好きになったことはありますか?
僕は「これを好きになるぞ!」と予め思って、手順に則って何かを好きになる、みたいな経験がなかったので、わからなくて、そこで、自分がどうやって音楽(これは本当に自信を持って大好き)を大好きになったかを今一度振り返りました。
小3のとき、NARUTOを見ていたら、オープニングでアジカンの「遥か彼方」がかかって衝撃を受け、地元のレコ屋で初めてCDを買って、そこから母の会員証を借りて毎月レンタルCDショップに通って、MDに焼いて、ビートルズ含むいろんな音楽を聴いて、中2で初めて渋谷のライブハウスに行って、中3でサッカー部を引退してすぐに念願のギターを始め、楽しすぎて、曲もたくさん作りました。高校では軽音部に入って、バンドを組んで、全く勉強せず、ギターを弾いてた記憶しかないです。
つまり、小3から、音楽が初めて仕事になるまでの10年間(厳密に言うとPENs+はメジャーデビューしてないし、全然生計が立つまでには至っていないんですが)、まあ、初めてCDを世に発表する、みたいな、音楽で社会に関わり始めたのが19歳の時だったんですが、最初に音楽に触れた9歳のときから数えて実に10年間、僕は音楽で、ただ”遊んでた”わけです。
もうね、登場キャラが「自分⇄音楽」しかない世界に浸っていた期間が10年あって、この期間、仕事じゃないから何の責任も負わず、他に誰も介入してこない状態で(←これ大事なんだと思う!他人の目を気にしないって意味で。)、いろんな形で音楽に触れることができたおかげで、だいぶ音楽を、深く、大好きになったなと思うんです。
おれ絵でこれやってないじゃん!って気づきました。
絵は最初から仕事でした。
だから、今28歳だけど、今からでも、子どもみたいに絵で遊んでみる経験をした方がいいんじゃない?って思いました。
そこで今しているのが、絵を好きになる大作戦 in ロンドンです。
具体的には、「脳内で親の気持ちになって、現実の自分を息子のように遊ばせる」みたいなことをしています。
どういうこと!
あの、赤ちゃんにおもちゃを与えて、子ども部屋で遊ばせる。親がそれを眺めている。みたいなシーンがあるじゃないですか。
あれって、親が変に口出ししちゃダメですよね。あれも、「赤ちゃん⇄おもちゃ」だけで構成される濃密な世界の中で、赤ちゃん自身が、「ここを触ったらどうなるんだろう?」みたいな実験をしながら、次第に、自分で、好きになっていくってわけ。
だから親にできるのは、おもちゃを買って、それに没頭する以外何も考えなくていいよーっていう環境をプレゼントしてあげるところまでなんですね。あとは赤ちゃん次第。
あの体験を、一人二役、自分でやろうと思ったんですね。脳が親で、体が子。
そこで、仕事を一旦ストップしてまとまった時間を作って、まさに親が子に仕送りを送るような気持ちで貯金を切り崩しながら、今はとにかく自分自身を、絵で遊ばせよう!と。
そこまでしてハマれなかったらもう絵は諦めようかなと思いました。
2022年10月、ロンドンにスタジオ(現地のアーティストたちが集まり、家賃を折半してそれぞれの創作活動に向き合う場所)を借りて、ここに入り浸るようになりました。
で、そこから更に4ヶ月が経ったのが今なんですが、だいぶ色々あったですね。。
何してたか?
簡単に言うと、1ヶ月単位で違うおもちゃを赤ちゃんに与えて、それぞれどんな反応をするのか、実験の気持ちで観察してみました。
■2022年10月
1ヶ月目:刺繍で絵を描いてみる
ミシンで服を作るスタジオメンバーに影響され、「刺繍で絵を描いてみよう!」と思い立ち、初心者キットを買って1ヶ月やりましたが、難しすぎて断念。でも、異なるアプローチで絵に触れる良い経験でした。
■2022年11月
2ヶ月目:デジタルイラストを描いてみる(自由に)
1ヶ月間刺繍で遊んだけどハマり切れていない感覚があったので、初心に戻ってパソコンで絵を描きました。ただ、仕事じゃない絵をほとんど描いたことがなかったので行き詰まりました。
でも、今は概念的に子どもだから、自分が5歳だったら何を描くかなと考えたら、たぶん、まずは目の前で起きた出来事を描くしかできないなと思って、最近起こった一番のビッグイベントはロンドンへの旅立ちなので、その瞬間を絵にしてみました。
そしたら、
おおーー!!!!!
けっこう良い絵描けたじゃん!!!!!
旅立ちの瞬間を描こうと思っただけなのに、子ども魂が宿って、だいぶファンタジックになってました。今まで1枚の絵にこんなにストーリーを乗せられたことなかったと思う。
絵って本当はこんなに自由だったんだね!!
妄想している間しかアクセスできないと思っていた頭の中の世界を、現実世界にポンっと出現させ、この目で見ることができる。それを人に見てもらうこともできる。
そりゃ楽しいわけだよ、、絵。。。だから世界にはこんなに絵が好きな人がいるんだね。完成した時はだいぶ興奮してました。
その時、脳内の親はこう思ったわけです。
「あら、うちの子、、、絵にハマり始めてる!?」
■2022年12月
3ヶ月目:絵の具で絵を描く
息子が絵にハマりつつあるのを見て躍起になった親は、絵の具を与えてみることにします。
絵の具を使って絵を描いた経験もほとんどなかったので、とりあえず初心者セットを買い、YouTubeで「アクリル絵の具 色 塗り方」と調べるところから始めました。
先ほどのデジタル絵を、まずは小さなサイズで描いてみることにしたのですが、
ふつうにやばいよね!
やっぱり今からでもやめたほうがいいかもしれないと思いましたよね。下手すぎ!
デジタルイラストと絵の具の絵って、サブスクで聞く曲と生ライブくらい違うものだと改めて思った。。自分が今までパソコンで描いていた絵ってのは、どこまでいっても”データ”だったわけ。落ち込むねえ。いやほんと恥ずかしいです。
でも、今遊んでるだけだから!音楽もまずは10年間遊んだじゃん!最初ギターめっちゃ下手だったよ!それでもだんだん好きになったんだよ!
■2023年1月
4ヶ月目:キャンバスにチャレンジ
とにかくわからないことがあまりにも多かったんで、年末まではチュートリアルや模写をひたすらこなして、「何色と何色を混ぜたら何色になるか」「グラデーションはどう作るか」など、本当に基礎的なことから練習しました。
で、年明けて今月。ある程度慣れてきたところでキャンバスに本番を描いてみよう!と。
この頃には毎日深夜までスタジオに篭るようになって、たぶん本当に一日14時間くらいは描いてて、寝落ちしそうになったら家に帰るみたいな生活で、半分ユーモアで始めた子ども再来体験が、なんだか本当に、ギターを抱いたまま寝てた15歳の頃のような生活になってきました。
そして約1ヶ月間、本当に時間かかりすぎですが、たぶん200時間以上かかって、初めて描いたキャンバス絵がこれです。
おーー!!!!!
、、これは、、、どうなんだろーーーー!!😂
たぶんまだ世に出して褒められるような優れた絵ではないけど、自分としては本当に頑張ったし、なんか、、ずっと見れちゃうなあ!!人も飛行機も宇宙も雲も芝生も、全部が見どころだよ!
ちなみに50cm×40cmのキャンバスにアクリル絵の具で、3回くらい塗りつぶして上から描き直しました。生で見たら絵の具がぷっくりしていて、もっと良いよ!でも、もっと上手くなりたい!本当に絵が上手くなりたいと思った!!
え、ちょっと、待って。
この気持ち、
絵を、、、、好きになってる、、?
え、
これ、絵が好き、、ってこと?
え、まだ早い?
まあ早いか、
え、どっち?
え、、、
どっちなのーーーーーーー!!?
ということで、長くなりましたがロンドン生活の近況報告でした!
今後のことはまた次回以降にまた書きます。
ちなみにこの連載は、今日から週一更新を目指していて、それが溜まったら2冊目の本になるかも…みたいな感じで、実は始まっているんですが、そんなスムーズにいくのかな、多分週一はすぐ無理になると思いますがでもまずは頑張る!
とりあえず、絵が描けたの嬉しい!!