第2話「英語が話せる」の正体

著書『英語日記BOY』より、一部を無料公開します。(p21~31 ↓)

どうすれば英語が話せるのか?

2013年、当時大学1年生だった僕は、英語が話せなかった。

「話せるようになりたい」とはずっと思っていて、努力はしてきた。

大学では「英語スピーキングクラス」を取り、先生に「音読がいい」と言われたらとりあえずやってみた。人気の参考書にはだいたい目を通し、どの留学先がいいか下調べもした。

しかしうちは裕福ではなかったから、たとえ留学先を決めたところで、留学することは不可能だった。

「なぜこんなに英語が話せるようになりたい自分が留学に行けなくて、たまたま裕福な家庭に生まれた大学生たちが簡単に行けるのだろうか?」

お金のことを考えるほど卑屈な気持ちを抱くようになっていった。

ただ、この卑屈さが「非常にかっこわるい」自覚もあった。「英語を話せるようになりたい」という希望を抱いていたはずなのに、社会への不満ばかりが募り、もはや英語でもなんでもなくなっている。何かが根本的に間違っていて、何かを劇的に変えなければいけないような気がした。

僕はまず、何をすればいいのだろうか。

お金はないが、時間だけはある。

そこで「英語が話せる」の定義を自分で決めるところからはじめてみた。

すると、今まで曖昧にしてきた、英語学習の本当に大事な要素が見えてきた。

僕は次第に、こんな考えを抱くようになる。

「もしかしたら、日本で留学を再現できるかもしれない」

第1章は「お金がないならアイデアだ」をスローガンに僕がおこなってきた、日本でいますぐにできる新しい英語学習の考え方について書いていく。

英語にお金は必要か?

既存の英語学習には、総じて高額な費用がかかる。

「まずはお金を貯めなければ」とバイトを増やしたり、節約に励む人がいるかもしれない。昔の僕もそうだった。

しかし、英語を話したい人が最初にやる努力は、本当に「お金を貯めること」なのだろうか?

たぶん、違うと思う。

そこで、改めてこんなことを考えてみる。

「自分はなぜ英語を話せるようになりたいのだろう?」

「自分はどんな分野における、どのくらいの英語力が必要なのだろう?」

自分と英語の関係性をこれまでにないほど深掘りした結果、こんな問いにぶつかった。

そもそも、英語が話せるってなんだろう?

何をクリアしていたら「英語が話せる人」と言えるのだろうか?

ペラペラって言うけど、どこからがペラペラなのか?

根本的な部分がまったくわかっていないまま、「とりあえずお金を貯めて留学する」ことを目指していた自分に気がついた。

わかった。

僕たちがまずやるべきことは、どんな条件を満たせば「英語が話せる」と言えるのかを考えること。

つまり、「英語が話せる」の定義を自分で決めるということだ。

来日ツアーのショック

2013年8月12日、僕の「英語が話せる」の定義が決まった。

この日に起きた出来事をまとめてみる。

Duck. Little Brother, Duck!という高校生の頃から憧れていたアメリカのバンドがいる。CDやレコードを全て持っている程好きなバンドだ。幸運にも、東京で行われた彼らの初来日ライブで、僕のバンドPENs+は共演を果たした。

演後に彼らと話すチャンスがあった。とても緊張するが、何か伝えたい。

「実は高校生の頃からずっと聴いてたんです!」

こんなことを言おうと思った。

しかし実際は悲惨だった。“I listened to your music…まで言ったところで、(あれ“listenedだと、ただの過去形だから「聴いた」になっちゃう)と気づく。憧れのミュージシャンを前に「ずっと聴いてきた」という、こんなに簡単な表現すらわからない自分にショックを受け、何も言えなくなってしまった。

あとで調べてみると、僕が彼に言いたかった英語の正解は、

I’ve been listening to your music since I was in high school !
(高校生の頃から、あなたの音楽をずっと聴いています!)

というらしい。文章自体はそこまで難しくない。ゆっくり冷静に考えれば、当時の自分でも作れなくはない英文だった。それでも、自分の口から瞬時に出すことができなかった。

逆に言うと、もし僕が「英語が話せる人」であれば、この英文が「瞬時に出てくる」はずだった、ということだ。

会話は「フレーズ」の連続

とはいえ、この英文を「丸暗記」していればよかったのかというと、そういう訳でもない。僕たちは日本語を話すが、暗記した文章をそのまま口から出している感覚はない。

それに、ただ暗記した文章はいつか忘れてしまう。学生のときあれだけ頑張って音読した教科書の例文を、いまではまったく言えなくなっているように。

 では「単語」を覚えていれば文章を話せるようになるのか?

 それも違う。「I」や「listen」「high school」だけでは、文章は成り立たない。

 ここで僕は次の仮説を立てた。

 英語が話せる人とは、いくつかの「単語」のかたまり、つまり「フレーズ」を数多く知っていて、それを「瞬時に組み立てる能力」を持っているのではないか?

よく考えてみれば、会話とは「フレーズの連続」である。

「英語が話せる」と聞くと、10分でも20分でも、ネイティブスピーカーを相手にペラペラと英語が出てくる人のイメージが浮かぶ。しかし、誰も「文章を全て暗記している」わけではない。その瞬間に最適な「オリジナル英語フレーズ」が即座に出てきて、それを無意識レベルで組み立てることで「言葉」として成立させているのだ。

「英語が話せる」の定義

こうして、僕のなかの「英語が話せる」の定義が明確になった。

英語が話せるとは、

「いま言いたいオリジナル英語フレーズが瞬時に出てくること」だ。

これで間違いない。

「英語が話せる人になる」では曖昧すぎる。

「いま言いたいオリジナル英語フレーズが瞬時に出てくる人」になるための努力をするのだ。

 

第3話「20歳アメリカ旅、Josephとの出会い。」

 


『英語日記BOY』(Amazon.co.jp)

 

Profile

Rio Arai  新井リオ

イラストレーター/作家/ミュージシャン

イラストレーターとしてAdobe CC Logo Remix、WIRED.jp連載イラストなどを手がける。著書『英語日記BOY』がAmazon英語の学習法ランキング1位を記録(現在12刷、7万部)。バンドPENs+のボーカルとして日本で4枚のCD、アメリカで1枚のレコードをリリース。

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